一曲ができあがるまで

Feb 28th, 2018  - by MusicNation公式アカウント

テレビ・ラジオの音楽番組でのインタビューなどでアーティストが『レコーディングが大変だった』とか『今回は海外のスタジオでレコーディングしてきた』と言っているところを見かけるのは昨今では珍しくはないと思います。しかし、多くのリスナーの方々はひとえに『レコーディング』と言っても、その曲達がどんな工程を経て形となっているのかご存じない方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。

 今回の記事は1曲が出来上がるまでの工程を

『作曲』  『レコーディング』  『ミックス』  『マスタリング』

4つのパートに分けて説明していきます。アーティスト達がスタジオでどんなやり取りをしているのか興味のある方、また特にこれから自分の音楽を録っていきたいと思われている方々には必見の内容です。

【作曲】

一言でいえば楽曲の設計図を書く作業です。様々な作曲の仕方がありますが、曲のイメージを持ってギターやキーボードでコードを弾いていくという手法が一般的で、ピアノ・ギター教室などで習う作曲方法は主にこのスタイルです。「ラララー」「ティッティータ、タララー」など言葉にはなっていないスキャットでメロディを探したり、「愛してる」「大好きだよ」と言葉の響きを中心に考えて作曲を進める手法もあります。「歌もの」と言われる楽曲であればAメロBメロサビの展開をどんな雰囲気にしていきたいか考えながらブロック毎に、メロディラインを上げて終わったり、あえて含みを持たせたり作曲者の思う形を作っていきます。自作の曲を提供する作曲家は曲のテーマやイメージを先に決まっている状態で請け負う場合がほとんどになります。

 他にもバックの音先行で頭の中で鳴っている音のフレーズを先にギター・キーボードで録音して、或いはDAW (Digital Audio Workstation、パソコンの音楽用ソフトと機器)を使って再現して、音を作りながらメロディを当てはめていくパターンもあります。DTMR&B Hip-Hop House EDMジャンルの作曲の際に用いられることが多く、生楽器では出せない電子音や予め加工された音を自由にプログラムして演奏させることができる点が大きな特徴です。生音で大部分を作って、足りない部分をDAWで補うという使い方もあります。

 

DTMにまつわるこんなエピソードがあります。Usherの『Burn(2004)を作曲したJermaine Dupriはマックブックに入っている無料ソフト『ガレージバンド』で『Burn』を作曲しスタジオに持ち込んだそうです。その『Burn』が収録されているUsherのアルバム『Confessions(2004)は全米だけで約12億円(当時換算)のセールスを記録したというのだから驚きです。無料ソフトから12億円、、、弘法筆を選ばずとはこのことですよね。。

 

【レコーディング】

 作曲の時にイメージした音やボーカルを別々に録っていく作業になります。昔はボーカルや楽器を綺麗に録る為のスタジオスタッフには、『レコーディングエンジニア』というポジションが確立されていたくらいスペシャリストが必要な作業で、音の拡がりを綺麗にマイクで拾う為に、一切ノイズを入れない防音ブースや、どんなに細かい音でも認識する超高性能マイクなどを駆使してあらゆる音を録音していきます。

 単にレコーディングと言っても、ただ音を録って進めるだけではありません。楽曲のグルーヴ感を損なわないように同じ楽器のパートを何テイクも録っておいてその中のベストテイクを選んだり、それぞれのベストテイクを重ねた時の微妙なリズムのズレを修正してまとめたり、修正の際は8小節毎に切り取ってグルーヴ感を損なわないように合わせていくのが主流ですが、それでも修正できない場合はもう一度録り直したり。レコーディングが大変と言われる理由は、レコーディングの時点ではバラバラに録っている音源を最終的に1曲として成立させなければいけないということです。それぞれの楽器を何回かに分けて一曲分の長さを録り切った時に、僅かなテンポのズレが音源のクオリティを下げる原因になってしまいます。特にボーカルは体調など日によっての微妙な変化が高性能マイクを通すと大きな違いとなり、声の調子が変わってしまうことのないよう1日で録り切ってしまったほうがいいとも言われています。昨日録ったものと全く同じように今日歌うこと・演奏することは誰にでも簡単にできることではなく、これがテレビやラジオで聞く「レコーディングが大変」と言われる主な理由です。

 世の中の音が良いとされる楽曲はレコーディングとレコーディングした音源中のリズムの細かいチェックを何度も何度も繰り返し行い、想像を絶する作業量を重ねて洗練されて形になっていきます。あのMichael Jacksonも同じ曲のパートを何十パターンと録音しておいて、その中のベストテイクを厳選して重ねて1つの楽曲を作っていたというので全力で何十パターンと音源を残し続けた姿を想像するととんでもないエネルギーを注いでいたことが覗えます。

 他にも『一発録り』といってアーティストが今まで歌い込んでいる曲をノンストップで一曲丸々録ってしまうケースもありますが、『一発録り』はかなり珍しいケースで新しい出来立ての楽曲には採用されることはほとんどありません。

 


【ミックス】

 楽曲の全体像・デザインを固める作業になります。デザインとはいえ目に見えるものではないので、ベストテイクを重ねて厳選した材料を活かす味付けをすると言えばイメージしやすいと思います。このミックスの作業工程では音色自体に自由自在に変化を付けられるイコライザー(EQ)を駆使して(それも数え切れないくらいの種類)、音を柔らかい印象にしたり硬い印象にしたり、ハリを持たせたり、艶を出したり、左右の聴こえ方に変化をつけたりと全体のバランスと細部にまで聴かせるポイントにフォーカスしていきます。

  ほんの少しの音の違いを聞き分けて、理想の形に近づけていく。例えるなら、リビングルームを作るのにどんな大きさのソファとテーブルを使うのかだけでなく、表面の肌触りや柔らかさもアイディアに合うように調整していくことと近いイメージです。何度も聴き比べて、調整しては聴き比べてどのバランスが音源の良さを最大限に引き出せるのか磨きをかけていきます。とは言え、奥行や明るさを視覚で判断できるのならまだしも実際にはスピーカー越しに流れてくるに磨きをかけるというのは本当に繊細な作業といえます。音を聴き分ける能力や理想の音へ近づける手法を知っている経験豊富な職人がいると非常に心強いと思うのがこの工程です。当然このミックスにも『ミックスエンジニア』という専門職に就いているエンジニアスタッフが存在します。この工程が進むといよいよ音源が楽曲として輝き始めます。

 


【マスタリング】

 ミックスの工程で仕上がった音源の、音量に関する調整を行う最終工程になります。それぞれ録った音源がミックスを経て仕上がり、一つの曲としてまとまるのでマスタリングは楽曲の出来を決定づける重要な工程となります。ここでも全体のバランスを考えて何度も調整し、聴き比べては調整しての工程を繰り返し一つの楽曲としての完成度を高めます。ここでのイメージは、ミックスの工程で思い思いの形にデザインしたソファやテーブルを、実際に間接照明を付けてどのぐらいの明るさで雰囲気が出るのか丁度のバランスを探すことと近いイメージです。1曲としてのマスタリングが終了すれば、その曲を収録するシングル(一般的に23)・アルバム(10曲前後)CD中の

他の楽曲と音圧の差が出ないように調整を行う工程もあります。やはり経験のあるエンジニアが頼もしくなる工程で、勿論『マスタリングエンジニア』という専門職に就いているエンジニアスタッフが存在します。ここまでの工程を経て音が良いとされる音源が完成します。

 

 作曲を終えて、レコーディングを終えて、ミックスを終えて、マスタリングを終えて、その後にCDのプレス工場やオンラインのiTunesなどに手配されて皆さんの手元に届く形になります。作曲ライブはレコーディングと比べると披露するまでの工程は短く予算も少なくて済みますが、Stevie Wonderのようなどんなにたくさんの楽器が弾けるミュージシャンでもマスタリングまでこなす人物はそう多く存在しません。腕のいいエンジニア・スタジオを探したり、レコーディングの工程全てに充てる費用を捻出することは特に駆け出しのアーティストにとっては大きな壁となることもあります。自分の応援しているアーティストがどんな場面で頑張っているのか、ピカピカに仕上げて棚に並べるCDがどうやって仕上がっていくのか、またその工程がどんな人達の手によって仕上がっていくのかを知ることで今までよりもアーティストに向ける目線は深くなっていくのではないでしょうか。この記事が一つの楽曲から拡がる音楽の世界を感じるきっかけとなってもらえたら嬉しいです。

  

執筆: Kohske the Singer

監修: 海老澤 力

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